「鉄VSクルマ」合意の舞台裏。

 今日の日経産業新聞最終20面「News Edge」に、今年度上期の自動車用鋼板価格交渉における新日鉄住金VSトヨタの決着の舞台裏というか、裏話というか、写真やグラフを織り交ぜてレポートされていた。昨日の日経朝刊1面の続報は、今日の日経朝刊11面(企業総合)や読売朝刊8面(経済)にも出ていたが、今までの背景や経緯を踏まえた今後の動向の考察にとどまっていて、それも大事なものの、舞台裏や裏話まで把握することでステークホルダー的に必要な、より深みのある考察が可能になる。

 「トン当たり『ゼロ4つ』の数値が絶対だ」
 「トン当たり、鉄鉱石&原料炭の円コストだけで1万円近く上がっている」

 ゼロ4つとはとりもなおさず「10000円」以上の意味だが、交渉中そういう思いがありつつ当初から本当は「1万5000円」が欲しかった理由が、別に円安基調で業績好調な自動車業界からもっとフンダクろうとかいう(?)不粋なことではなく、「新たなR&D投資資金が必要だった」という。クルマ向け高張力鋼板(ハイテン)で韓国ポスコ等に激しく追い上げられており、「年間の経常利益にして少なくとも2〜3000億は必要」とソロバンをはじいたとしている。

 日経会社情報最新号の夏号を見ると、前期経常が769億だったが、今期の通期予想が一気に3100億と、日経の見立てではもう既にはじいたソロバンをクリアしている。ものの、今回の値上げを織り込んでいるか否かまではわからない。まあ「今回の値上げで経常2〜3000億確保にメド」と言っているとも受け取れるので、値上げ分を含めた2〜3000億ということだろう。

 もっともトヨタ側も、「国内生産300万台」の先行きが不透明だとして原価低減の手は緩めないともいい、年度下期も今回のような決着があるかどうかまでは流動的のようだ。

 こうなると、キーは「鉄鉱石や原料炭の市場動向」「為替とりわけドル円やユーロ円の動向」になるが、確かに原材料は中国の懸念が長引いて、軟調に推移し続ける公算大でメリットがあろうものの、為替だけは何とも見通しようがなかろう。まず米FRBのQE3縮小・終了がいずれ不可避となったら、普通に考えれば相対的に米金利が上がってドル高円安になるはずだが、当然為替は1個の要因のみで動くはずもないし、そういっている間に欧州問題がまたぞろ再燃することでもあろうものなら、もうワケがわからなくなる。ただ、現時点で一つ言えるのは、新日鉄住金にとり昨今の円安基調の方が、輸出しようにも中国を中心とする鉄鋼インフレのせいで思い通りにいかない以上、自動車側がホクホク顔で機嫌がいいと値上げ交渉がしやすい筈で助かるというわけだ。