「日立・三菱重経営統合」の日経のスクープ、池上彰の視点。

 今日の朝日朝刊15面(オピニオン)下に『池上彰の新聞ななめ読み』という、きっての新聞読み(!)池上彰氏のコラムがあり、今回は先日4日付日経朝刊1面トップの「日立製作所三菱重工業経営統合」というスクープとその後について取り上げられていた。
 主旨は「スクープした言わば“言い出しっぺ”の日経が、その後統合に纏わる両社の動向を一切報じていないのは遺憾だ」というものだ。確かにその日の夕刊以降、朝毎読その他東京(中日)等も追っていたが、どちらかといえば懐疑的な論調だった……僕もここで書いたが、日立こそ表向き否定しつつそれに前向きながら、三菱重がカンカンに怒ってしまい(?)他の三菱グループ企業も難色を示したのだ。その点が丁度半年前の新日鉄・住金の、しかも「経営統合」を通り越して「合併」ということと相当な温度差があるとした。こうして2〜3日もすると、日経を含む各紙も株式市場すらも俎上に乗らなくなってしまった。
 そして池上さん曰く「特に日経はそんなことではいけない。日経しか読んでいない人は経営統合するものだと思い込んでいる」と締めていた。ただこれはちょっと池上さんらしからぬ詭弁かもしれない。
 確かに今は亡きかつての相場師・是川銀蔵さんのように、日経本紙しか読まないという人がいるかもしれないが、日経だけ読んで朝日等には目もくれない人もそんなにいないと思う。また、ありがちな『日経の読み方』という類の本で時折言われるのは、「日経新聞を読みこなすのに、日経新聞だけを読んでいてはいけない」というもので、朝日でも読売でも何でもいい、他に何か1紙だけでも足すべきだと教えているのだ。これは僕も賛成だ。だから日経だけ読んで「両社は経営統合する筈だ」という人より、朝日等も併読して「三菱が否定する通り、経営統合だけはないかもしれない」という人が多数派だろう。
 それにスペースの都合で突っ込んでは取り上げられなかったのかもしれないが、冒頭でかつて読売が69年(昭和44年)元旦早々に銀行合併……「三菱・第一が合併」を1面トップでスクープしたが、第一側の反対運動というか、推進派の頭取陣営と反対派の会長・一部OB陣営とのお家騒動というか、結局わずか2週間程で白紙還元されたことに触れていた。僕も去年いつだったか触れたことがあるが、これは40年以上経た今も名高い話で、僕的には高杉良氏の『大逆転!〜小説三菱・第一銀行合併事件〜』『大合併〜小説第一勧業銀行〜』に詳しいと思っていて、時折思い起こしたり読み返したりしている貴重な参考文献だ。今回当の三菱重並びにバックの三菱グループが難色を示しているのが、そのかつての第一銀行・古河グループを彷彿とさせるというわけだ。
 ここでちょっとした余談になるが、こうしてよくよく見ていくと、かつて三菱が知らず知らずの間にグループを挙げて第一・古河グループを怯えさせたが、40年もの時を経て、あろうことか今度はこの天下の三菱グループが日立という一介の電機メーカーに怯えているという図式である……歴史の皮肉としか言いようがない。
 当時日経は読売の2年後、71年(昭和46年)3月11日付朝刊で「第一・日本勧銀が合併」をスクープしたが、高杉氏の小説にもある通り読売の「教訓」をもちろん十分に踏まえて、他紙やNHK、とりわけ「前回のリベンジ」に燃える読売に嗅ぎつかれるギリギリのところで1面トップで書いたのだ。そして無事に第一勧銀(興銀・富士銀も含め、現みずほFG)の発足にこぎつける……ただ、その部分は今回の池上コラムでは触れられていなかった。
 その丁度40年前の「故事」は現在も日経の編集局を中心に息づいているはずで、また、池上さんならそこまでご存知のはずだが、今回載せているコラムは朝日向けなので、スペースの都合と相俟って書き切れなかったのかもしれない。